題名のない音楽会 2012年3月25日 なんてったってコントラバス
ゲストとして宮本文昭、東響の首席コンサートマスター大谷康子、そして東フィルの首席コントラバス奏者である黒木岩寿を迎え、佐渡とともにコントラバスに関する色々なことを語り合う内容。
まず、黒木氏がコントラバスをやることになったのは、バンドをやっていて、エレキベースを担当したのがキッカケだったと言う話があり、いきなり引き込まれた。また、オケのコントラバス(以下、CBと略す)奏者へのアンケートでは、中高生のとき吹奏楽活動でCBをやったのがキッカケという人が多かった由。
これには佐渡も驚いていたが、私も(佐渡より年長なので)当然驚いた。
吹奏楽のメンバーにCBが含まれるなどと言うのは、昔は、殆ど例がなかったはずだからだ。
私も吹奏楽をやっていた時期があったのだが、同じメンバーによる別活動としてジャズバンドをやったことがあり、ピアノが趣味だった同級生にピアノを頼み、CBが趣味だった先生にお願いし、吹奏楽だけでは不足する楽器を整えた、という経験があるほどだ。
最近の吹奏楽で、リードなどCBを使う曲をやる機会が増えたことも要因かも知れない。ただ、CBのパートが書かれていない曲の場合は、チューバのパート譜で演奏するらしい。
大谷さん曰く、CBが一本加わっただけで、吹奏楽のサウンドがオーケストラのサウンドのように豊かになる、とのこと。
一本だけでそれほど絶大な効果をもたらすCBを、場合によっては8本以上使うオーケストラという演奏形態がいかに贅沢な響きを作り出しているか、というのは、CDでもある程度には伝わるが、ナマで聴く方が体感し易いのも確かだ。
CBは音の出始めが遅めなので、指揮者のタクトに合せていてはダメで、タクトの動きよりも僅かに早めに出なければならない由で、その例として、カラヤンがベルリン・フィル(以下、BPO)に指示しているリハーサル映像が示された。
カラヤンとBPOだけでなく、カラヤンとウィーン・フィル(以下VPO)、バーンスタインとVPO、ラトルとBPO、ベームとVPO、小澤とバイエルン放送響など、錚々たる顔ぶれの映像が、トークの合間合間に説明用として流され、それだけでも贅沢な時間となった。
また、オケのCB奏者へのアンケートで、CBが最も活躍する曲の例としてマーラーの1番の第3楽章を挙げていた。これはまあ当然だろう。
また、CBにとって難しい曲として、R・シュトラウスの作品が挙げられていたのも、まあ想像はつくことだ。番組内では、それぞれの楽器に役割が与えられていて、音楽のメインの流れの後ろの方で、聞こえるか聞こえないかという音量で、CBの、与えられたキャラクターを示さねばならないから、といった説明をしていた。
しかし、CBにとって難しい曲のもう一方にモーツァルトの曲が挙げられていたのは意外だった。
確かにモーツァルトの交響曲の演奏映像を見せてくれたが、左手も右手も実にせわしなく動いている。大変な肉体労働であり、それでいて音程を外さないようにしなければならないわけだ。
それは、モーツァルトの頃までは、3度調弦だったのが、現在では4度調弦で演奏するようになったのが大きな要因だ、との説明があり、ナルボトと思った。
現在は「ド」の弦の上の弦は「ファ」の音(ドの4度上)に調弦するが、モーツァルトの頃は同じ「ド」だとして上の弦は「ミ」(ドの3度上)にしていたと言うのだから、フィンガリング(左手の指使い)が根底から崩れる。
私は、モーツァルトは余りややこしいオーケストレーションや演奏法を取らせずに最大の効果を挙げていた作曲家だと思っていて、彼の曲の場合CBは殆どチェロと同じことをやっているだけという脇役レベルなのに、余りややこしいことをさせるのは奇妙だ、と一瞬思ったのだが、調弦の説明を聞けば、これもナットクである。
また、CBには4弦のものと5弦のものがあるのだが、それを実際に鳴らして音域の違いを聞かせてくれたこと、弓の持ち方に「フレンチスタイル」と「ジャーマンスタイル」の二通りがあることも説明があった。
フレンチスタイルは、他の弦楽器と同じ持ち方(手の甲が上向き)であるのに対し、ジャーマンスタイルは、それと逆の持ち方(手のひらが上向き)である。兵庫芸術文化センターのオケは、色々な国からメンバーが集まってきているので、どちらの双方の奏者もいるとのこと。
そう言われると、これまで、余り注意して見ていなかったなあ。
最後に、ジャズやロックにおけるベースの役割よりも、オーケストラのCBの役割の方が大きい、という佐渡のコメントで終った。
これも、いい締め方だった。
だって、ジャズにせよロックにせよ、コード進行がつきものだが、それはクラシック音楽の和声理論が元になっているのだから。また、楽器の使い方も、演奏法も、クラシック音楽における成果を採り入れたものなのだから。
ゲストの黒木岩寿が、バンドのエレキベースからクラシックのCBに進むきっかけが、エレキベースを本格的に習おうと、ある先生の門を叩いたとき、「それなら、まずクラシックのCBを学んで基礎を作った方がいい」と奨められたというエピソードも話していた。
そういうものなのだ。
私は「クラシック原理主義者」ではない。何でも聴く方だ。しかし、クラシック音楽というジャンルの、こうした幅広く奥深い広がりを理解していると、オケへの助成金をカットするという某市長がいかに浅はかか、また、大切に育ててきた(多くの固定ファンもついた)N響アワーを廃止するという愚挙・暴挙をやるNHKという局が、いかにアホか、ということになるのだ。
ここの処、「題名のない音楽会」の内容、好企画が続いている。
上にも書いた通り、実に贅沢な映像紹介もあった。そこで採り上げたものではないが、往年のカラヤンは、やはり凄かったと実感もしたので、2通り紹介しておきたい。
また、「ジャズやロックは、クラシック音楽の成果を活用している」というのは、西村朗の本によるものだ。併せて紹介しておく。
この本、少し詳しい人には物足りないかも知れない。しかし、それでも新たな発見をさせてくれる。私がそうだった。「難しいことをやさしく解説」とか、「初心者から聴きこんだ人まで」というのは、こういう解説のことを言う。
少しくらい詳しいからと言って、専門ではない作家の兄ちゃんが、とてもこなせるものではないのだ。
さらについでに、西村-岩槻コンビによる楽しいコーナーだった、「今宵もカプリッチョ」も。
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