名曲探偵アマデウス 2012年1月11日 英雄ポロネーズ
引退していた、ボクシングの世界元チャンピオンが、復帰戦に向けて・・・という相談で、採り上げられたのがショパンの「英雄ポロネーズ」。
トライアントの相談と「謎解き(?)」の推移について、今回の記事では省略する。
今さらショパンの、この規模の曲(僅か、181小節)で、何を語るのかと思ったが、結構気が付かないでいたことについて興味深く見せてくれたので、それについて書いておくこととする。
まず、曲の冒頭、16小節の序奏のあと、17小節目でようやく主題が出てくるのだが、変イ長調の主題が出てくる前の序奏は変ホ長調で、変イ長調の「属調」にあたる。属調は主調である変イ長調に向かって主調に落ち着こうとする(解決する)性質があり、主題の登場を期待させて行く力がある。
序奏から主題が出てくる処までの音は、こんな様子である。
「PolonaiseHeroique_opening.mp3」をダウンロード
「ポロネーズ」なのだが、典型的なポロネーズのリズムが出てくるのは、僅かに7小節だけで、これは57小節目から始まる。
その7小節から続いて、また主題が出てくる処までは、こんな感じ。左手のパートに聞こえるのが典型的なポロネーズ。
「PolonaiseHeroique_bars57_66.mp3」をダウンロード
故国ポーランドへの思いを残したまま、ポーランドを出てから遂に戻ることができなかったショパンの、故国の民族舞踊のリズムの1つがポロネーズである。7歳のときに初めて作曲したのもポロネーズで、仲道郁代が一部だけ弾いて聴かせてくれた。
このポロネーズのリズムだが、仲道曰く、1拍目を僅かに重めに、そして長目に弾かないと本来のポロネーズにはならない由。従って上掲の音は、本来のポロネーズではないことになる。
そして、ポロネーズのリズムは、明確に聴き取れる上掲の箇所の他、右手のメロディーや変形した形で、曲のあちこちに出てきている由。
ポーランドのピアニストでミハウ・ソブコヴィアクという人が登場し、そもそも、曲の全体が、主題も含めて、ポロネーズのリズムを感じさせるものであって、ポーランド人にとってはごく自然に感じることができるのだが、他の国に人には分かりにくいだろう、とのことだった。
そして、中間部(トリオ)の左手に現れる、何か人を鼓舞するような部分について。
実はこの箇所、私は弾けないが、譜面づらを見る限りは、さほど難しい箇所ではないと思っていた。
しかし、今回の番組で、実はピアニスト泣かせの部分である、ことを知った。
ここは、左手のオクターブで、16分音符4つを34小節、合計102回叩くようになっている(正確には、全てが16分音符4つではない。しかし簡便のため全て16分音符とすると、4×102回=408回叩くことになる)。
仲道曰く、ここを弾くと腕がツッてくるそうで、間に何度かアルペジォの箇所があるので、そこでできるだけ腕を伸ばしてほぐすのだそうだ。
彼女はルビンシュタインを一番尊敬しているのだが、ルビンシュタインがこの曲を弾いているとき、この箇所のアルペジォを弾いている時に思い切り腕を振り上げていたが、それは、腕をほぐすようにしていたのではないか、とのこと。それが聴衆から見ると実にカッコイイと見えたのではないか、とのことだった。
その部分の音はこんな感じ。この箇所では、左手は同じことの繰り返しである。しかし、ここでは鳴らしていないが、途中から少しだけ音が変る。上から演奏している左手を見ると、引用した部分ではせわしなく左手が左周りに回転しているように見え、音が変る部分では同様にせわしなく右周りに回転しているように見える・・・との説明もあり、改めて確認すると、ナルホド、これは大変だ、と感じ入った。
「PolonaiseHeroique_trio.mp3」をダウンロード
さて、曲の終り近く、16分音符の連続の中に、強い拍ではない箇所の16分音符にアクセントの指定がある。これは全て「ハ」の音で、ヘ短調の属和音を示す音。で、そのままヘ短調に進んで落ち着く(解決する)のか、と思わせておいて、しかし、結局は曲の主調である変イ長調に落ち着く、その妙味または作曲技法の巧さについても説明された。
この箇所である。「ハ」音のアクセントがうまく再現できていないが、実際の演奏でも、それほど目立つように弾かれているわけではないのでご容赦を。
「PolonaiseHeroique_bars143_156.mp3」をダウンロード
以上の音源はfinaleによるものである。内蔵されている楽器の中で、スタインウェイのピアノと示されている音を使用した。
さて、番組中の解説の殆どと、最後の演奏例を仲道郁代がやったので嬉しい回だった。英雄ポロネーズが収録されたCDを、仲道郁代のものと、彼女が尊敬しているというルビンシュタインのものを挙げておく。
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