名曲探偵アマデウス 2011年6月18日 モーツァルト P協ニ短調
事件ファイル7番に相当する内容を、スペシャル再放送したもの。
ただ楽しく明るい曲が主流だったというピアノ協奏曲の分野に、新しい表現方法を持ち込んで深さを増し、作曲当時からデモーニッシュな曲とされてきたニ短調K.466の作品である。
番組では、第1楽章冒頭の不安を感じさせる音型が、シンコペーションによるリズムによっていること、第2楽章の美しさ、そして第3楽章に第1楽章の主題の変形が出てきて、第1楽章で聴衆に与えた不安を解決するように聞こえることなどを、クライアントの相談の中味に合せて紹介していった。
さて、番組では扱わなかった中で、私は2点、どうしても付け加えたいことがある。この2点も加えて紹介していれば、更に良かったと思う。
まず、「デモーニッシュ」ということは「ニ短調」で書かれていることとも密接な関わりがあると思うが、恐らくそれもあってだろう、ベートーヴェンが好んでいたはずだという点である。
第1楽章の終結部の前、365小節目と366小節目の間に、カデンツァが挿入される。手許のスコアにはカデンツァの楽譜が含まれていないのだが(上掲のものは手許のものと異なるので、含まれているかも知れないが)、カデンツァとして残されているのは何曲かあるのだろうが、最もよく演奏されるのはベートーヴェンが作曲したものなのである。
ベートーヴェンがこの曲を評価したのはもちろん、自分でも演奏したのではないだろうかと推測させるに十分だ。
そして、このベートーヴェンによるカデンツァが入ったものを聴くと、途中まで「確かにデモーニッシュかも知れないが、やはりモーツァルトには違いない」と思って聴いていたのが、突然さらに激しい曲調になり、「ああ、これはベートーヴェンだ」と感じ、それでもモーツァルトの曲の中であるので、ベートーヴェンとしてはおとなしい曲調で、モーツァルトを聴きながらベートーヴェンも聴いているような、何とも不思議な感覚を味わうのである。
この曲は、古典派の二大天才の共作とも言える部分が含まれていて、実に贅沢な形で残されているのだ。
もう1点は、この番組ではサラッとしか触れなかった、第2楽章について。
第2楽章の冒頭、ピアノだけで示される旋律は余りにも有名で、楽章の中で何度も形を変えて出てくるのだが、最後にもう一度、原型に近いものが出てくる。
冒頭では、ピアノ独奏だけで8小節弾かれ、9小節目から同じ音型をオーケストラが鳴らして、ピアノとオーケストラが「対話」しているように聞こえるのだが、最後に出てくるときには、ピアノが弾き始めたメロディーにーケストラが一向に応えようとしない。冒頭の倍の16小節、ピアノだけて進められてゆくのである。
静けさが怖い・・・ベルリオーズの「幻想」の第3楽章の終わりの部分と似た雰囲気と言ってもよい。
「デモーニッシュ」というのは激しく騒がしく不安な感じを与えることだけとは限らない。暗く孤独な感じを与えることによっても成り立ち得るのだ。「闇」と言ってもいいだろう。
第2楽章のその部分についても、私はモーツァルトの「闇」を感じるようになってしまった。こんな感じを味わうこととなったのが、内田光子による演奏である。
そして、一度そんなことを感じてしまうと、中々モーツァルトを気軽に聴くということは、できなくなっていくのである。
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