N響アワー 2011年5月8日 ノリントンの演奏
「ノン・ビブラート奏法」を標榜し実践している指揮者が何人かいて、その中でパイオニア的な存在がノリントンということになる。
20世紀の始め頃までは、弦楽器にビブラートをかけて演奏することはなく、従って、その頃までに作曲された曲は、ノン・ビブラート奏法で演奏すべきものだ、というのが、その説の要旨だと理解している。
この日の放送では、ベートーヴェンの交響曲第1番全曲と、エルガーの交響曲第1番の第4楽章が採り上げられた。何れも、2011年4月16日、NHKホールでの演奏。
ノリントンに言わせると、管楽器や打楽器など、元々ビブラートをかけないで演奏する楽器が多いのだから、弦楽器もビブラートをかけないで演奏した方が、純粋な音が出せる(ピュア・トーン)とのこと。
そして、エルガーもノン・ビブラート奏法で演奏したのだが、エルガー辺りまでは、ノン・ビブラート奏法が行われていたから、と言う。
ピュア・トーンという言葉は初めて知ったし、それはそれである程度までは理解できないでもないが、問題は出てくる「音」であり、演奏の質ということで判断すべきものだろう。
ノリントンを始め、ノン・ビブラート奏法によるオーケストラ演奏は、何度か聴いているが、率直に言って、どうにも親しめないのだ。とにかく乱暴な音がするとしか思えないし、演奏自体の質も、そんなに良いとは思わないのである。
ベートーヴェンの1番。
確かに青年ベートーヴェンが、颯爽と交響曲の分野に乗り出して行こうという意気込みが感じられる曲だし、ノン・ビブラート奏法というか、ノリントンの演奏だと、さらに゜それが強調されたような音になる。テンポも全体的に速めだし。
この曲、確かにそういう面もあるから間違った演奏とは言わないが、ただそれだけのことに終始してしまうのだ。
ベートーヴェンの1番は、それだけではなく、これを含めて9曲の交響曲(「戦争交響曲」を除く)を書いたことを知っている我々聴衆が積み重ね、受容してきた「演奏史」というものに関わるものもある。それは、「確かに『1番』からしてスゴイ曲を作っていたのだ」と思い返させてくれるものが含まれている。そうした要素も必要なのが、この曲の演奏であるべきなのではないだろうか。
例えば、ここにクレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団のものを挙げておく。
ハイドンの曲などと併せて聴くと、ベートーヴェンは、短かったとは言え、確かにハイドンに師事し、影響も受けていること、そしてさらにその中から自分なりの道を探し当て始めたのだ、ということを感じさせてくれる。そうした演奏だ。
尚、クレンペラーによるベートーヴェンの交響曲は、全曲盤も比較的安価に入手できるので、是非とも聴いてみて欲しい。最初こそテンポの遅さに戸惑うかも知れないが、慣れてくるともの凄い演奏だと思えてくるのである。ただ、「5番」だけは余りの遅さに私もガマンできないことを告白しておく。他は超絶的な名演。
さて、エルガーの交響曲は、まだ余りよく分からないので一言だけ書いておくに留めるが、やはりノン・ビブラートの演奏による音には違和感を覚えた。
そもそも、ベートーヴェンの1番は、指揮棒を持たず、曲が終ると同時に、拍手を待たずにノリントンが両手を挙げて聴衆に得意満面の趣きで振り返った。エルガーは指揮棒を持ち、曲が終って拍手が鳴ってから聴衆に向かって振り返った。
これって、ベートーヴェンを愚弄するものではないだろうか。
ベートーヴェンはベートーヴェンであって、ポピュラー音楽ではない。
エルガーは自国の作曲家で尊敬しているが、ベートーヴェンはみんな知っている通りの、こんな音楽でしたよね、とでも言いたいのか。
こんなパフォーマンスを見せられると、元々嫌いだったノリントンが、益々嫌いになった。
併せて、ノン・ビブラート奏法というもの自体、これ以上広がることのないよう願うばかりである。やっぱりおかしいよ、あれは。
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